当たり前に何十年だか頼み続けているメニューをふとした思いつきでちょいと違うものに、など思う時があるんです。いや、ほとんどないな、ない。ないんであるが、稀に「あ、やっちゃお」など思いついていつも通りにしないことがあるんです。どっちなんだよ。
カレーですよ。
そんなことをうろうろ思いながら、甲州街道蔵の駐車場にクルマを止めて、緑道を店に向かいます。
いつも通りの幡ヶ谷、
「カレーの店 スパイス」
であるわけだから、当然ながらいつも通りの「エッグ入りポーク&チキン」とするのが常套なんであるぞ。そうなんであるが、この日はなんだか暑くて仕方がなくて、えいやで辛いものだ、とさらに汗をかくつもりになってました。暑さを辛さで滅するのであるよ。効果のほどは定かではないけどな。
とにかくいつものはやめといて、「エッグ入りチキン」をたのんでみます。ああ〜なんか久しぶりだなあ、カレー1種。なんでこんなに不安なんだろう。いつもと違うというのはこんなにも心細いものなのか。いやそれほどでもないか。
スパイスの
「エッグ入りチキンカレー」
は辛いんです。
激辛とかそういうんじゃなくてニッポンの洋食カレーライスとして辛い方にあります。それが気に入っているのです。そしていつもなら「エッグ入りポーク&チキン」なわけであり、穏やかな甘口のポークカレーが癒しとなり、辛いと甘いの交互運動で楽しく食べ終わります。サイコーなんであります。いつでも最後のひと口をどちらでフィニッシュするか大変迷うのよね。そして今日は迷うことを許されないのだよ。目の前には辛いチキンだけであるから。
辛い辛いと言っていますけど、たとえばデリーのカシミールなどとは違う方向の辛さであり、十分に楽しめる範囲にあるんです。ただ辛いから、そうじゃないからではなくて、バランスとしてからさと甘さを楽しむというところでそれができないことに不安を感じてるわけです。
しかして楽しく食べ切るのであるよ。「あっ!」と思った。わたしはいま達人の域に達している。そのことを自分で知るわけです。なにを言ってるんだこの人は。わかるよ。
つまりいつもは「エッグ入りポーク&チキン」で楽しくバランスを取って食べているんですが、今日は辛さを所望。そして少し寂しく思う気持ちを脳内変換。ポークカレーの優しい味を脳裏に思い描きながらバランスをとるのです。素晴らしい領域に辿り着いた、と自分で感心するんだよ。そうだろ、すごくない?
こうなると次の扉はこう。ひとくちも食べずして想像のみで味の世界に揺蕩い、満足を得る。「不射の射」であるぞ。「至射は射ることなし」なんであるよ。
やだな、そんなの。