わたしは遅れてきた人間なんです。それはつまり現役時代の、現場の清水さんの味を知らないということ。「竈KAMADO」の味を知らないということ。
カレーなしよ。
カレー、カレーで20年以上やってきたからね。ラーメンを知らぬ男なのです。
そういうまっさらのわたしが出かけて行った高田馬場、栄通りの「つけ麺ひまわり」で行われた1日だけの復活祭。
「竈KAMADO復活祭」
とても楽しみにおじゃまをしてきました。
栄通り、久しぶりだなあ。馬場の文教堂のビルの地下で焼き鳥焼いてた頃があったから、高田馬場は好きな街です。「大地の木」もあったし、「ブラザー」も「プネウマカレー」も大好きだし、何より小野員裕さんの行きつけの店も多いから。
清水さんとは友人の金田浩樹さんが「繋げたい男がいる」といわれてお会いしたのです。以来気にかけていただいて「カレと。Men」時代は取材などお願いしたり。清水さん清水さんなどと気軽に話しかけているんですが、清水さんは清水店主であり一世を風靡したラーメンの大看板「竈 KAMADO」を起こした大将なのであるぞ。
体調の問題で現場の一線を退いたものの、その現場の裏側でリサーチや開発を精力的にこなし、飲食というフィールドにとどまり、未だうまいものを間接的にわたしたちに届けてくれています。
さあ、
「チャーシューラーメン」
だよ。店頭の張り紙にあった品書きがこれ。
【本日のラーメン】KAIADO復活祭特製くんたまチャーシューメン
・板橋大栄食品製今朝製麺した特製生麺
・チャーシュー4種
らぁ麺やまぐち 謹製 ローストポーク
つけ麺屋ひまわり 謹製 チャーシュー
麵屋宗 謹製 炭火チャーシュー
我羅奢 謹製自家製ベーコン
・燻製玉子 特製卵を使用した「くんたま和ver.」
パッと見てすぐわかるのがチャーシュー4枚それぞれが違う見た目であること。食べればわかるその面白さ。香ばしく燻された香りのものが大変おいしいぞ!ローストビーフ的仕上がりのものや王道のものと兎に角一枚一枚食べるたびに楽しくてね。参加協力した現役店主達のそれぞれの味だそうです。そういうのにも胸が熱くなります。燻製玉子も竈ならでは、ということなのです。
そしてスープのバランスの素晴らしさ。キツくなく、重くなく、なのにたっぷりの満足感が残る。舌にしつこくなくまろやかで、まとわりついて悪さするようななことがない素晴らしきチューニング。甘みに逃げない旨味。夢中になります。温度が徐々に下がると魚介がだんだん頭をもたげてくるたのしさ面白さ。レンゲ、止まらず。レンゲだけでスープ飲み切ってしまったよ。圧倒されます。
そうか、これが時代を築いたダブルスープ、燻製玉子と燻製チャーシューに豚骨と魚系のダブルスープだ。一時代を築いたスタイルが1日だけもどってきた、ということです。ああ、とため息が出ました。おいしかった。
たぶんこれは飽きないやつだなあ。ものすごいインパクトとか飛び道具ではなく、気がつくと舌や気持ちを掴まれてるやるつ。時代が変わってラーメンの嗜好方向も変わったと思いますが、その根本になるものは変わっていなくて、この一杯はそっちに向いている、そう感じました。
この日はお弟子さん達やこの話の突端となった高田馬場ラーメン組合が総出でまわしていたらしいです。清水さんは仕込みこそ立ち会ったそうですが現場では寒い中入り口に張り付いてでお客さん達に挨拶など。当然そうなるでしょう。だって「竈の清水大将」と再び話をしたかったお客さんはとても多いはずだからね。
帰り道、ちょっとミールスやターリのことを思い出したのです。
ラーメンはトッピングや仕上げの油などで緻密に、計画的に味の変化を作るものも多いんです。かたやインド亜大陸周辺の定食は客が自分から皿の上のおかずとお汁を組み合わせて積極的に自分の味を作り出します。しかしどちらもその器、そこに用意されたものからは味や香りは逸脱せず。きちんとそのお店の味として記憶に残ります。最近ではカレーも味の変化などを店の意図としてコントロールするところも増えている気がします。カレーの人間としてはちょっとそういう想像などして楽しくなったよ。
ゼロからラーメンの食べ歩きでもしてみるか、などふと思う冬です。