
そうだった、行かねばならぬ。金島シェフのカツカレーを食べねばいけない。
カレーですよ。
築地の「TSUKIJI.カフェ.スイス」で開催された「カツカレー★オールスターズ 2 – 昭和100年のカツカレー -」。これすごかったんです。内閣官房の昭和100年ポータルにも掲載されているイベント。なにしろ今年は昭和100年だからね。会場となる店は「TSUKIJI.カフェ.スイス」、銀座スイスの築地店。この「カツカレー」と「昭和100年」というキーワードにぴたりとくる会場です。このチョイスは素晴らしいと思うぞ。

数日がわりで参加各店に順々にバトンが回るスタイル。そのお店から店主や料理人が来ていたり、地方店もあったりで贅沢極まりない催しです。そしてその最後を飾るお店が欧風カレーのレジェンド、金島シェフの料理。お店、と書いたんですが、シェフは現在お店を持っていない状態です。それで新しいトライの準備をしてらっしゃると風の噂にも聞いていて、ワクワクするわけです。ちょっとした業界の転換点になるやもしれぬ流れだと考えています。その味をイベントで先取りという訳ですね。

後出しジャンケンになってしまうのが悔しいんですが「Japanese Spice Curry WACCA」の三浦シェフに全部持って行かれた感があるのですよ。三浦シェフはもともと思考が深く、手もどんどん動かす、その結果の言語化能力が高い人なわけですが今回の言葉も今まで以上に鋭く完璧でありました。彼のSNSは読むべきだよ。三浦シェフはカツカレーの掘り下げにおいて余人をもって代えがたい料理人・研究科であります。だからこそ彼の言葉には厚みも重みもあるんです。下記に拝借を。

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八丁堀での土曜営業終わりに、そういえば!と思い出して向かった金島シェフのカツカレーINカツカレーオールスターズ。
料理に100点なんてないと常々思ってますがボンディ、ガヴィアル、オーベルジーヌといった欧風カレーのど真ん中、そんなオーセンティックな欧風カレーのカツカレーとしてこれ以上何をどうする必要もない完成度。もうこれは個人的には100点でいいでしょう。
カツカレーで私より深く掘り下げてる人はそうはいないと自負していますが、そんな私の解像度で言うと、これはカツカレーの1つの到達点ですね。カツカレーが目指す「カツをソースや塩ではなくカレーで食べるのが一番美味しい。」が体現されているのではないでしょうか。
また、カレーも店作りなので、誰もが知る欧風カレーの味ですが、その中でも最上位だなと感じました。一言で言えば店で手間を惜しまないで、蛇足もなく、真っ直ぐにちゃんと作って、尚且つアイデンティティが出てる味とでも言いましょうか。
これ、高級とんかつ屋で出てくるようなとんかつでも食べてみたい。めちゃめちゃ美味しいかもしれないな。そうなるとwaccaはもうカツカレーやめるかもな。ど真ん中のカレーで完璧なカツカレーができるなら、何をどうやっても勝てないし。なんて考えながら食べてました。
イベントのトリに相応しいカツカレーもなんと明日までだそうです。そして、金島シェフは新しい実店舗を探している最中とのことで、今のところこのカツカレー、明日までしか食べられません。
全世界のカツカレー好きは、オーセンティックの極みのカツカレーを食べにぜひ築地スイスへ行ってくださいね!
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とまあ、口を挟む隙のない澱みなき表現力と伝達力。こういうのを書かれると文作業のわたしは頭を抱えてしまうのだよ。

わたしはといえば恥ずかしながら正直に告白するとカツカレーを少々馬鹿にしているところがありました。ある気がする。なぜかというと、ただもうカレーライスにトンカツを乗せただけの創意工夫が全く見えないものが多いから。料理として悪いとは思わないんですけど「完成」というところではそれに程遠いものだと思っています。しかしそういうものが郷愁や詫びを含んで良いものとして成立していることも理解してるし、そういう部分は大事に思い、気に入ってもいるんだけどね。なかなかこう、割り切れないのです。割り切れないのはカツカレーにおいて研鑽が物凄い店が、シェフが存在しているから。

だからおなじ「カツカレー」を名乗る料理としてとんかつ乗せただけカレーを、たとえばここ「銀座スイス」や町田「アサノ」の横に置くことはできない。してはいけない。でしょ。「カツカレー」をきちんとカツカレーたらしめんという努力研鑽がないとやっぱりね。そういうのの果てにきちんと「完成」をみていないからね。エセではないけどゆるくやっているものの楽しさと軽やかさを知っているからこそ、本物には最大限の尊敬を持って接せねばいけない。そう思います。否定っていうよりも対比だね、これは。

そして本稿本筋に戻らねばいかん。自分の言葉での言語化です。今度は欧風という観点。ボンディ、ガヴィアル、オーベルジーヌに反旗を翻すつもりはさらさらないよ。欧風カレーというジャンルは大変好きな括りであるからね。その中心を腐す(くさす)なぞとんでもないことです。でもね、金島シェフの欧風カレーはすごかった。深度が深い。解像感が高い。驚かされました。
それで。
企画主催の松さんが強く勧める、
「カツカレーとボタージュセット」
を素直に注文してみました。これにして本当に良かった。
ひさしぶりにテーブルセッティングというものがあるカレー専門店に来たな、という感。自店舗が今はない金島シェフのやりたいことや未来が想像できる部分です。

まずメニューを見て欲しいんですが「カレー」というメニューはないのです。「カレーライスだけ」はないんです。カツとセットになっている、というか、カツカレーである「KANESHIMAカツカレー」しかないの。それはつまりカレーライスではなくカツカレーとしてコンプリート、完成品であるということ。この意味は食べ終わって知ることになるんです。
まずは
「ポタージュ・ドゥ・オニオン」
これが実に素晴らしいもの。西洋料理の王道を行く玉葱ポタージュです。

その深く奥行きある味わい。舌の奥の両脇あたりが刺激されて唾液がぐいぐいと湧き上がります。甘酸っぱさと言ってもいいかな。そういう調味調整をされた、いや、調味ではないな。そういう味を技法腕前と集中力で素材から引っ張り出すような。調味などいう言葉で片付けられないような味が皿の中にありました。

繊細さありながらも太い味わい。頭を何度も撫でられるような「おいしいだろ?おいしいだろ?」という至福の反復と、同時に「わかってるか?わかってるのか?」とその味の理解を求めてくるように額を小突かれる感覚。極私的な感覚ですが、間違っていないと思っています。
そんなポタージュの時間を終えての、
「KANESHIMAカツカレー」
口にして、ああ、とちょっと声が出てしまった。唸り声をあげてしまった。カレーソース、素晴らしいなあ。それくらいしか言葉が探せないんです。いつもの「素晴らしい」の7倍増しと思って欲しい。

味も香りも重層的なのにまとまりに揺るぎが一切なく、ものすごい。舌ではなく香り、スパイスで感じさせる青々しい痺れのようなものがやってきて。で、じつは痺れは実は幻で、香りのマジックでそう思わさされているのがうっすらわかって。そういうのがなんと楽しいんです。嬉しくなるような、しかし度を越さない甘み、単純ではない構成のスパイスの美しい主張。辛さを乗せたからこそこの香りが生きてくる感じ、いや、逆でもあるか。ちょっと言葉がまとまらないよ。これはすごいものだ。

カツはきちんと脂身に幸せがあるよいものです。しかしまったく奇を衒う様子はなくて、ひたすらにオーセンティックに徹している。あえて書くんですが。非常に美味しいんだけど、それが当然という表情でなおかつ突出してくる個性のようなものを抑えよう抑えようとしているんじゃないかという風情。これが後に効いてくるのです。

そしてここからだよ。それら以上、パーツごとの凄さ以上の凄みを感じるのがここからなのです。カレーソースとごはんとカツが分かち難い関係でバランスしてます。本当に、バラバラにできない、バラすとなんというか、喪失感を感じちゃうくらい。なんだこれは、と思い知らされます。

カツだけ食べる。うまい、しかしソースか塩が少し欲しい。ごはんも炊きあがり素晴らしいシャキッとごはん。が、ごはんというところは越えてこない。カレー、実に実に美味しい。懐広く深く素晴らしい仕上がり。が、まだ先があるのではなかろうか、と思える糊代部分がほんのり見える。そんな感じなんですよ。それを3つとも組み合わせるとバラバラにするのは困難な強固で美しいプラチナのリングが出来上がるのです。

どのパーツをマイナスしても成立しない、と思いました。単独で立っていられないバランスを三本の柱で、ちょうど焚き火の薪やカメラ三脚、インディアンテント=ティピのようなシルエットで組み合わせて自立させてあります。1本では無理、2本でもぐらぐら、3本で初めて不足なく、しかし無駄なく自立する。そういうバランスがありました。
実は。確かめてみたんですよね。やっぱり確かめないと。

「ポタージュ・ドゥ・オニオン」をスプーンですくってカレーに混ぜてみます。穏やかに融和するんですが波というものにはならずに収まっていく感じ。大きく変化はしません。カレーに吸収される感じかな。カツだけを「ポタージュ・ドゥ・オニオン」の海に泳がせて食べてみます。おいしい、悪くない。でも、やっぱりごはんとカレーがないとバランスしない。なにかちがう。つまり「カツカレー」として確固たる完成をみているんですね。このひと皿は。どうにもできないんですよ。バラすとか別の組み立てとか。

個人的にはカレーが少ない気がしたんだよね。でもそれは間違い。極私的な味の好みが下世話でちょいと下品な分量バランスが好きだからという個人的な好みの話でした。そういう人間の舌をを黙らせる配分と味、そこからの完成度がこの皿の上にはありました。

この文章は十分ではないと思うよ。もっと言葉を削ぎ落としたい。ちょっともう少し、あと数回食べないと言語化で満足いく結果は出せそうもないな。でも会期は終わりです。終わりなんだけど続きもあるんです。5月21日~28日、虎ノ門ヒルズにて開催のイベント「バーホッピング」に出店が決まっています。こんどはカツカレーではなく、これこそ金島シェフ、の王道を行くらしいですよ。「欧風ビーフカレー」楽しみです。
とにもかくにも物凄いものを食べてしまったな。素晴らしいものをいただきました。
