服そのものが面白い、楽しい。着ることで発見があり、デザイナーの仕掛けや意図が見えてくる。
そういう体験をしました。こういう感覚は久しぶりだったのです。数十年ぶりではないかなあ。
GUが仕掛けてきたミハラヤスヒロのコレクション。これをこうやって文字にするだけで自分がどこの世界線にいるかわからなくなるんですよ。まさかこんな世界にたどり着くとはねえ。驚いた。
ミハラヤスヒロの靴を一足、持っているんです。レザーのハイカットブーツ。凝った作りでわたしのような大人がいま履いてもしっくりくる、しかし普通のものでは無いオーラを湛えた一足。とてもよいものです。この靴は25年ほど前にガールフレンドにもらったもの。当時の彼女は10代だったはず、そんな女の子がミハラヤスヒロの靴をプレゼントに選ぶのは大変だったのじゃないかと思います。
高価なものだから。
彼女は服に強いこだわりを持っていました。トンガっていたと言ってもいいな。ゴチックロリータファッションを顔色ひとつ変えずに着こなす、お姫様のような女性でした。そういうバックボーンを持っていたから恋人にプレゼントをする高価な靴もまた、その価値観から妥協ないものを用意してくれたのだと思います。思いとこだわりが金額を超えたのではないかと思っているのです。そういうよいものは時を越えてきます。
そんななつかしく、甘酸っぱくも熱を感じるエピソードがあっていまだ印象深く、そして靴自体、時間を越えられるモノとしての丈夫さと価値、普遍性と尖った感性を四半世紀失わないまま2021年にやってきたわけです。価値のあるものは時を超える力を持っています。そういう体感、実感を得たのがミハラヤスヒロの靴でした。
そんな楽しくも切ない思い出とともに未だ手元にあり続けるこのミハラヤスヒロのブーツ。2021年にミハラヤスヒロのデザインでファストファッションブランドから洋服が発売されるとは夢にも思わなかった、というわけです。
ファッションもその筆の範囲の中に収める友人の敏腕ライターの女性も面白がっていましたよ。曰く、「20年前の世代がMENS NON-NOで見てたブランドのライン」という彼女の言葉になるほどと納得できました。GUの企画担当者や決裁権を持つ立場の人などがもしかするとそういう世代なのかもしれないね。
かなりの型数購入したコレクションの中から一枚選んで着てみようと服を広げました。服は着てみなけりゃわかりません。
ベースボールシャツのボタンをはずしていて思わず声を上げてしまったんですよ。これ、すごく楽しかったんです。
パッと見ればわかる特徴は、前と後ろ、身ごろの色を変えてあります。それもカラーラインナップの各色でその色違いのトーンを分けてあります。いやはや凝っています。はっきり色の違いがわかるものもほんの僅かな差をつけたものもあって唸らされます。型1つにつき、というデザインでとどまらず色違いでのチューニングまで施してあるというわけです。手をかけているのですよ。
5つあるボタンを5つのボタンホールから、上から順に押し出していったのですが、最後のボタンホールからボタンをはずしにくかった。なんだよ、不良品かな、と思ったら。5つ目。一番裾のボタンホールが縦ではなく横に開いていました。縦、縦、縦、、ときて最後に横にボタンボールをカットしてありました。もちろん不良品ではないですよ。うわーこれデザインだ。楽しいなあ。ミハラヤスヒロという人のイタズラです。なんということだ。
本当に声を上げてしまったんですよね。そのあと、笑ってしまった。楽しくて。服がわたしを楽しくしてくれました。なんということだ。すごいぞこのコレクション。
そのあとデニムパンツをはきました。よいシルエットで履き心地も軽くてすぐに気に入りました。急いでもう一本買わねばと決めたのですがすぐに売り切れて買いそびれ。色違いの黒を手に入れました。
太ももにひとつ小さなポケットが開いているんです。これはスマートフォンを入れるのにちょうどいいポケット。ジーユーの特設サイトのPVで見ていたので知っていました。そんなふうにモデルの男の子が使っていたからね。
ふと思い立ってポケットに両手をつっこみます。うん、いいね、いいね。おや、おや、何か拳に違和感がある。よく見てみるとフロントポケットのスタイルが左右で変えてある。そうだった。今回のテーマの一つ、アンシンメトリー、二つのデザインの左右、上下等での融合だ。またも声を上げてしまった。楽しい。なんで楽しいんだろう。服に驚きがある。とてもいい。
ノームコア、ジェンダーレス的な服がしばらくの間台頭していましたよね。ファッションは繰り返しなわけで、少し遊んだデザインのものが浮かび上がる最近となっているわけです。
それとは別の独自の歩みを進めるミハラヤスヒロのデザインが時代とシンクロしてきたのかもしれません。そして販売がひと段落し、売れ筋とそうじゃないものが売り場を見ると見えてきて。残ったお洋服が、店頭に出てまだ3週間ほどだというのにがどんどん値引きされていってGUというお洋服屋さんの残酷な面が見えてきたりします。ファストファッションでトレンドものをスピード感をもって展開していって、売り切りで。そういうお洋服の辛いところも見えてきます。
GU、はじめのころは身につけるとおかしなでっぱりへっこみが出るようなパターンのひどく悪いダメな服だった。今では立派なブランドに成長して、新しい提案をして、新しい切り口を見せてきます。
でも、そっちじゃない残酷な面やディフュージョンのお安いお洋服の価値について、考えることも必要かな、とも思います。
いまはアンダーカバーコラボが展開されているようです。