カレーですよ5006(赤坂 nomuno 岩瀬酒造 x お料理 Pairing Event)日本酒とスパイス料理。

アキノ・リーさんからお誘いをいただいたイベント。これがなかなかに楽しくて印象に残ったのです。いや、面白かった、勉強になったよ。

 

 

カレーですよ。

 

 

リーさんからメッセージが来たんですよ。「はぴいさん、お酒飲めますか?」飲めますとも飲めますとも。好きですってば量はへったけど。このあいだの中野のトリコカレーでのプレオープンイベントの時におじさん4人全員で(リーさん、スパイシー丸山さん、365curry南場四呂六さん、あたし)ジュース飲んでたので(お酒もあったのに)確認が入りました(笑)

なんのことかな、と思ったら、日本酒の飲み比べとスパイス料理とのマリアージを楽しむイベントへのお誘い。日本酒とスパイス料理か!面白い組み合わせだねえ。そりゃあ一も二もなく参加です。

会場は赤坂見附駅裏の「nomuno(ノムノ) 赤坂店」。普段はワイン100種類飲み比べ放題をコンセプトとする定額制ワインバーなのだそう。この夜は通常営業は無しで貸切のイベント、料理人も外から来ます。日本酒ナイト、です。題して、

 

「岩瀬酒造xお料理Pairing Event」

 

というタイトル。

千葉御宿の老舗の蔵元、「岩の井」レーベルで知られる

 

「岩瀬酒造」

 

の創業300年(!)記念の「岩の井i240」シリーズ、古酒ブレンドの「平・和の調べ」などを飲み放題(!)での飲み比べが提供されるというものです。なんかとんでもないぞそれ!テーマとして日本酒とスパイス料理のマリアージュを掲げている、というわけです。

日本酒はその可能性の掘り起こしにまだまだ伸び代があるものだと思っています。元来その国の土地のものというところからもいわゆる洋酒よりも日本人の体質にあったものであることは知る人も多いはず(もちろん飲みすぎては元も子もないけどね)。ただ、和食と合わせるだけイメージからの脱却がまだまだ進まないと感じます。フーディーの間ではもう当然となっているものの、外国の料理と合わせても良さそうな味わい、幅も持ち合わせる日本酒というジャンル。なかなかそういうイメージになっていない中、今回は「スパイス料理」というお題。こりゃあ間違いなく面白い。

 

ここらへんまで書いたんですが、わたし、日本酒の知識は大変浅いです。それを自覚しつつ、別の分野、スパイスとカレーで培った舌で感じたままをぶつけることにしましょう。

このイベントの特筆はね、まず「岩瀬酒造」の会長、庄野智紀さんに直接お話しを聞けたこと。やはり作っているかたのお話しを聞きながら飲むというのは他に変え難い価値があります。

Dragon Ashのドラム、櫻井誠さんのことはカレーが好きな尖った人なら知っているはずです。フジテレビ ONE TWO NEXTで放送中の「スパイストラベラー」でお馴染み。カレー細胞松さんのイベントでもお名前があがります。本気の料理人でもありカレーラバーとしても知られるひとです。料理人として厨房に立ってくださいました。

 

もう一人の料理人、料理研宪家の稲石清美さんは知る人ぞ知るアイドルグループ「制服向上委員会」OG。岩瀬酒造のアンバサダーも務めていらっしゃいます。

 

そして我らがカレーおじさん\(^o^)/、AKINO LEEさん。櫻井誠さんと稲石清美さんが料理をしている時に、リーさんは進行役として庄野会長とともにお話しを聞かせてくれます。

こんな構成、こんなメンバーでの特別な時間ですから。要素多め、大変濃いめの赤坂の夜となるわけです。

「i240」は今回の「岩の井」のお酒の新レーベルです。通しでこの名がつけられたその意味は、i = 岩の井。240 = 硬度。国内でも屈指の高度の御宿の地下水を汲み上げて使っているのですが、あいだに貝殻の地層を通しているそうで、そこからミネラルが多く含まれることになり、土地独特の水から個性強い酒が生まれるのです。では、プログラムがスタート。

 

「i240 米違い飲み比べ」鶏挽肉のスパイシーサラダ ラープ ガイ

ブルーのラベルは「純米吟醸 五百万石 無濾過生原酒」。

米の香り高くまろやかなんですが、ちょっとなにか舌の中程に強めのツンとくる刺激と舌裏に残るミネラルの個性が出る感があります。ラープの辛さに負けない個性を持っていました。ラープ ガイはタイ料理。辛くて酸っぱい味付けです。ラープの辛味が舌に残るのですが、辛さに刺激を受けた舌の上を五百万石がしっかり味の個性を主張して駆け抜ける感じ。なるほど、こういう組み合わせ。

イエローのラベルは「純米吟醸 総の舞 無濾過生原酒」。

ふくよかな味わいです。ちょっとやはりこれもミネラルからなのか、膨らみの幅と大きさを感じます。ちょっとワインの白のいいものにも似る感があっておもしろいなあ。こういうリンクを感じられるのは楽しいですね。日本酒の面白さが伝わってきます。経験した他の食べ物やお酒の体験がこういうところで比較対象にできるというのは本当に楽しいこと。

酸味と辛さが特徴のタイ料理「ラープ ガイ」。ホムデーン(タイの紫玉ねぎ)がちゃんと使われていたりで本国のものを彷彿とさせる仕上がりです。きゅうりの皮に飾り包丁を入れてあったりでわかっている調理人が作っているなあ、とうれしくなるのです。

 

「総の舞」パクチー生春巻き

ラープ ガイの時に出てきたイエローラベル「純米吟醸 総の舞 無濾過生原酒」をパクチー生春巻きと合わせます。ベトナム料理の生春巻き、パクチーがたくさん入るのですが、過剰に強い個性は出していないバランスよいものでした。刺激は大きくなく穏やかな味の特性。これとふくよかな味わいの「純米吟醸 総の舞 無濾過生原酒」がよく合うんだよ。

岩瀬代表がおっしゃっていた日本酒ペアリングの妙、洋酒ペアリング、主にワインですがあれとの違い。洋酒は対消滅ではないですが料理と酒のお互いの個性のでっぱりとへっこみを繊細に隙間を無くしていく感じだと感じるんですが(だけではないけどね)、日本酒ペアリングではその個性を同じ方向で寄り添わせるようなイメージ。なるほど、と膝を打ちます。

 

「五百万石」千葉県産いわしのパコラ

いわしのパコラ、これがね、出色の出来。大変においしいのです。なんだかんだで日本人はうまい魚が好きなのよね。それがスパイス仕立てであってもどうにも反応してしまうのです。千葉県産の良いいわしを使っているようで、そういう地元産にこだわるバックボーン、ストーリーもこういう食事の楽しみの一つです。パコラはインド料理。インド人は揚げ物が大好きなのです。お魚のスパイスフリッターという言い方がわかりやすいかしら。いわし自体の良さを消さず上手にその味をスパイスで持ち上げる巧みさがありました。

 

ブルーラベル「純米吟醸 五百万石 無濾過生原酒」を合わせます。魚の旨みに飲み込まれない個性がありますが、しかしお魚の良さを殺さない懐の広さも併せ持つお酒。楽しい組み合わせです。

 

「i240 米違い飲み比べ」チキンサテ(ガイ・サテ)~ピーナッツソース、きゅうりのピクルス~

サテは串焼き料理。ガイ(鶏)なのでこれはアジアの焼き鳥ですね。インドネシアやシンガポール、マレーシアなど広い地域で食べられるもので甘いピーナッツソースがかかっています。本当に強く甘さが前に出るので驚く人もいますが、ここに日本酒を合わせるのはかなり良かったなあ。純米吟醸の米のふくよかな甘みを楽しみつつ、その甘さに別のアプローチの甘い料理を合わせる、というのはなかなか面白い体験。ピクルスでバランスを取っているのも好印象です。とても美味しいピクルスで、ただこのコースの中だと単独だと行き場所がなくなってしまうとも感じます。これが組み合わせ、ぺアリングの妙というもの。たのしい、とてもたのしい。

「総の舞」スパイス蒸し豚ピーナッツチャトニソースで

これも特筆。蒸し豚がかなりの出来でちょっと箸が止まらなくなって困りました。上品な白い色に仕上げた柔らかい豚肉に甘め、濃厚なピーナッツチャトニをなすってやって食べます。味は上品なんですが手応え強いもの。「総の舞」の舌触りのふくよかさとの融合が見事。ああ、これいくらでも食べられるぞ。

 

「山田錦」超級四川麻婆豆腐 マッサマンカレー

さて、カレー、きます。

締めのものはアタック強い四川麻婆豆腐と甘み穏やかなマッサマンカレーです。このふたつの料理自体が面白い組み合わせと味の落差があります。

そこにゴールドラベルの「山廃純米吟醸 山田錦 無濾過生原酒」の組み合わせ。

この山廃の山田錦がかなり個性的なんですよ。ふくよかで強さもある山田錦とアマジョッパでお馴染みのマッサマンカレーという組み合わせはなかなかのマリアージュ。

ははあ、こうなるのかあ。とても面白い。

 

ごはん合わせるごはんにちゃんと長粒米を使ってあり、その香り共々山田錦とよく合うのがとてもいい。いいですねえ、おもしろい。

同じ「山廃純米吟醸 山田錦 無濾過生原酒」との組み合わせでも打って変わって、超級四川麻婆豆腐は麻婆の麻辣が増幅される感じになります。ああ、これも面白い。かなり強めの麻辣で山田錦との組み合わせで痺れが増幅される感があるのがすごい。なんだこれは、という感。正直ラストなので酔いが回っているというのもあるんですが(笑)それも含めて楽しいんです。

 

「平・和の調べ」スパイスマカロン

シナモン・カルダモンのミルクチョコマカロン 〜パッションフルーツソース~

クレームフロマージュのマカロン〜キャラウェイのココナッツソース~

マカロン、まずこれがね、かなりいい。とてもおいしい。マカロンってこんなに良かったっけ?と訝しむくらいおいしいんです。そして「平・和の調べ」がすごかった。日本酒の古酒なんですが、これがまるで紹興酒のような趣を纏っており、酸味と味のふくらみ、個性が太くて不思議と米の顔が見えてこないという面白さ。最後の最後にほんの少し米が顔を出す感じで、これには驚きました。面白いものがあるんだねえ。切り口を変えたこういうものが日本酒の蔵元から出てくるのは本当に刺激的。すごく楽しいです。

実は「平・和の調べ」。すごいお酒なんです。

あのトップソムリエ、田崎真也さんがブレンドをした熟成古酒。平成と昭和のエッセンスがブレンドされた熟成古酒、ということでついた名前が「平・和の調べ」。

岩の井は熟成古酒で国内外にその名を響かせる蔵元です。その蔵の中から6種の熟成古酒を世界的ソムリエである田崎真也さんがブレンド考案というストーリー。なるほどそりゃあ、、の出来なわけですよ。甘味と香り、どこかに苦味も感じられるのがおもしろいです。ただもう美味しいというところもあるんですが、なんだか頭と感覚を大いに遣わされる感じもあって、そこがマタイいいんです。

そしてこれ「ロンドン酒チャレンジ2020年」でプラチナ賞を獲った、海外でも認められるすごいもの。どおりで存在感が違うわけだね。

「岩の井」は御宿のかなり硬めの水で仕込んでいるそうです。ミネラル分も強いのだそう。お酒すべからく、特に日本酒は強く水に依るところを持っていますが、各酒蔵がその水を選べるわけではなく、当然土地の水を使うこととなります。(水を求めて土地を探す蔵もあるでしょう)そのなかで個性強い高硬度の水をいなし、個性として味方につける「岩の井」はとても気になる酒蔵です。そういうお話しを庄野会長からうかがって強く興味が出てきました。

 

舌や感性が刺激され、その上に庄野会長のお話しがレイヤードされてますます深みが増してゆきます。とてもいいイベントでした。

正直に書いてしまうと、半ば過ぎにはちょっと会場内、いい感じになっていて(笑)お客さんたちの声も大きめになり楽しい飲みやさん状態になっていました。リーさんはちょいと渋い顔(笑)わかる、わかるぞ。

多分もっとレストランのワインペアリングコースのような雰囲気に持っていきたかったのではないかしら。そのために色々と構成を考えてらっしゃったのではないかな、と想像しました。

でもさ、ここもやっぱり日本酒のいいところでね。肩の力を抜いてうまい酒、珍しい肴との組み合わせを楽しんで、驚いて。それで隣の見知らぬ客と「美味しいですね!」とか「面白いですねえ」なんて楽しくおしゃべりが弾んで。ワインの場所ではこういうどやどやとした雰囲気にはならないかもしれません。あの和やかな空気が作られるのもいい日本酒と旨い肴の力、です。

 

庄野会長とお話をしたんですが、そのときに仲良くさせてもらっているフリーアナウンサー・和酒コーディネーターのあおい有紀さんとの話が話題にあがりました。

フェイスブック上でしたが、あおいさんが急速冷凍技術のパイオニア、テクニカン社が全国26の蔵元とコラボレーション、「凍眠」で凍らせた搾りたて生酒を冷凍のまま販売というプロジェクトの話しを出してらっしゃったんです。そこに都内でほぼ初めて凍眠のシステムを入れたインドレストラン、東日本橋の「ダクシン」での試食の話をコメントしたら、なんと岩瀬酒造さんもその凍眠生酒プロジェクトに入ってらっしゃるということをあおいさんが教えてくれました。うむむ、ご縁だなあ。またもカレーがご縁を繋いでくれました。

お酒や食べ物ってそういう力があると思います。

日本酒の知識がなくウロウロと感じるままに書いてみたわたしですが、その楽しさに触れたからか、ちょっと週末、「岩の井」の故郷、千葉御宿を訪ねてみたくなりました。外房も内房も、割とよく足を運んでいるしね。