
神田神保町は昔からカレーの街としてのイメージがあるわけですが、正確には「カレーライスの街」であると思っているんです。
カレーですよ。
現在では幅広く色々なジャンルのカレーが集まるようになりました。南アジアの料理がいわゆる「カレーライス」と肩を並べるようになってきたのはまだ20年経たないのではないかなあ。それまでは「カレーライスの街」だった印象です。

そんな神田神保町の南アジア料理のレストランシーンを牽引するのは「ルシ」というお店。界隈最強のインドレストランという認識を持っています。いや、掛け値なしだよ。
「南インド料理 ルシ」
の料理のレパートリーの広さ、マニアックな面白さと深みはなかなかに大したもので、料理のクオリティもインドのホテルレストランクラスと言って過言ではないでしょう。ホール担当や調理人なども同様。そういう雰囲気というものがあると感じています。

この日はブッフェだったのです。山木さんが事前に教えてくれました。山木さんは腕ある料理人でたまにここにヘルプに入っているようです。お願いをしてブッフェの日を教えてもらっていました。ルシでは不定期でランチのブッフェを行っているんですよね。

ランチには毎回テーマがあるようで、トゥデイズランチスペシャル、の名前で済ませる時もありますが、例えば蒲田店では「ミリタリー ミールス」の名前で、由来をイギリス統治時代の軍人向けスタミナミールのイメージで提供。神保町店のスペシャルランチでタミル州を象徴する花パワラマッリ(ナイト ジャスミン)をテーマにしたワンプレート セットをメニューにあげたり。

きちんとこだわるテーマを持ったコンセプトで料理を組み立てたりするところなぞ、ホテルクオリティの所以といえます。非常に楽しくて好ましいね。この日のランチブッフェにもテーマがありました。題して、
「バトゥカンマ フライデー ランチ ビュッフェ」
インド南部テランガーナ州を中心とした主にヒンドゥー教徒女性たちによって祝われる「光り輝く花の祭典」をテーマにしているそうです。ルシのSNSをフォローしておくとそんな情報も流れてきて楽しいし、食事に対する意識が高まったり興味が深まったりがあって価値があります。こういうのはとてもいいよ。

ブッフェの日は11時にお店に入ることをお薦めしたいのです。それというのもブッフェであろうとも、というコックさんたちの矜持が見えるんですよ。美しい料理の佇まいを見ることができるからね、これ本当に必見。

ウォーマーに盛り付けられた料理はお客が手を出す前の状態を見るにつけ、ああ、コックさんたちがきちんと誇りを持って料理をしているな、とわかるんですよ。盛り付けがあるんだよ。客にすぐ崩されるであろうブッフェのウォーマーバットの料理でさえ。飾りを描いたり美しいトッピングをチラリとしたり。なんと尊いことか。これは一見の価値があるし、1850円の価値を存分に味わうならコックたちの意図を全て得られるであろう最初の状態を見るに越したことはないと思います。

さてこのブッフェ、バカみたいな言い方で自分でも恐縮なんですが、全部おいしい。もう本当にそれしか言いようがないからそう言ってるんだけどさ。インドの星付きホテルのレストランをそのまま神保町のビルの地下に持ってきた感じのハイクオリティな料理なのですよ。

テランガーナマトンビリヤニ
マトンビリヤニですね。上品な薄めの味付けと肉の仕上がりの素晴らしさに刮目。テランガーナ州の州都ハイデラバードスタイルのマトンビリヤニ。ハイデラバーディービリヤニと呼ぶことも多いようです。
ネルールチキンクルマカレー
チキンクルマです。コルマではないぞ。コルマは北インド、カシューナッツと生クリームを使う。クルマは南インド、生クリームではなくココナッツミルクで仕立てるという違いがあります。アーンドラプラデーシュ州ネッルールの郷土料理。

チキンチンターマニ
タミル・ナードゥの伝統的鶏肉料理。タマリンドと赤唐辛子を多用する炒め煮。いわゆるカレー(グレイビー)ではなくドライタイプ。これおいしいんだよねえ。ちょっとどこか酢豚的というかチャイニーズインディア的な感じがあります。

メティクルチャ(ナン)
大変においしいクルチャ。ナーンというよりクルチャというよりパンとして真っ当なものだと感じさせます。ずいぶんいいな、冷めても全然かたくならずでおいしくて。西洋パンを感じさせるところがあります。おいしい。
バンドーサ
これ素晴らしい。食感はウパタム的なしっとり柔らかでしかし酸味はなし。じゃがいものペーストをドーサ生地に練りこんでモチッとした食感を作り出してあるそう。素晴らしいパンケーキだよこれは甘くしてもいけると思う。チャトニがとてもよく合います。

ウルタムチョール(豆ごはん)
ウラド豆の炊き込みご飯。これいいなあ。この日ののビリヤニよりも輪郭がはっきりした味です。香りよく、これも大変においしいよいもの。

カダイベジタブルカレー
野菜がこれでもかと入ったボリュームあるトマト煮込み。トマトベースで濃厚かつ切れ味よく好みの味。これ好きだな。イタリアのお母さんとインドのお母さんの合作っぽい感覚。

チダンバラムゴスツ
難しい名前のこれ、ものすごく旨いんです。タマリンドベースのナスのスープという程なんだけどね。サンバルをより以上にクリアスープに寄せて、そこから辛く仕上げたという印象。辛いけど辛さは辛いだけじゃなくちゃんと風味の一部として機能していて。繊細な味で何度もそっと口の中で回してやって楽しみました。

タミルナードゥ州チダンバラムのナタラージャ寺院由来、伝統的なナスとタマリンドの料理だそう。13世紀の碑文の中にその名が出てくるという歴史ある料理らしいです。神様への捧げ物(プラサード)だね。寺院由来の伝統的なレシピでは玉ねぎ、ニンニク、トマトを使わず作るのだとか。色々と興味深いのです。これ3回おかわりした。たまらん。

キャベツ パコラ
これ、よかったな。不思議なしゃりしゃりとした食感で、なんだろうと思ったんだけど多分キャベツを千切りにして揚げてあるのではないかな。千切りキャベツの天ぷらであるよ。面白い、美味しい。しかもこの店にキャベセンなんか使う料理は他にはなくて。使い回しではない、この料理のためにキャベツをスライスしているのがわかるのです。ほら、サラダはカチュンバルだからね、角切りサラダだから。

マドゥライタンニチャツネ
大変に香ばしく口当たりなめらかなチャトニ。タミルナードゥ州マドゥライの発祥。タンニ=水のことでそのなめらかでさらさらの質感を旨とするソース。ココナッツを使わずローストしたチャナ豆がベースだそうで、ああ、だからこの香ばしさか。これ実に美味しいです。バンドーサのふわりとした食感によくあってて止まらなくなるよ。たっぷり使いたいやつです。

ミックスライタ
スタンダードな野菜入りライタで、こういうのがあるとないとでは食事の充実度が大違いとなるのでありがたいよ。わたしはビリヤニよりもグリークサラダにかけてやるのが好みでした。
グリークサラダ
野菜のダイスカットサラダなのでカチュンバルかと思いきや、チャットマサラ仕上げではなくオリーブオイル仕立て。おや、と思って表記を見るとグリークはギリシア風の意味だと書いてあります。なるほど、それでブラックオリーブのダイスカットも入るのか。シンプルだしいいじゃないこれ。これもたくさん食べたい。こういうコンチネンタルなやつとかがあるからなんかホテルっぽいよねと思うんだな、きっと。

キャラメルカスタード
プリンだとばかり思ったら何かが違うぞ。中に入っているつぶつぶは豆なのか米なのか。キールではなく、フィル二ではなく、なんだろう。ムタイプリンというやつかしら。ムッタイワトラッパムかも。ワトラッパムはワダラッパンか。あ、なんかわかってきた、、、気がする。

こんなラインナップでした。とにかく総じて満足感が高いよなあ。いい料理を食べているという実感が強く残るんです。いいなあ。神田神保町界隈でブッフェスタイルのランチをやっている店はほぼないのでそれも強みになるんじゃないでしょうか。ここは覚えておかないと後悔する店。

1850円のブッフェ。これはお値打ちだと思うよ。毎日やってるわけじゃないので注意。インスタグラムを探してフォローしておくことをおすすめします。
いやあ、おなかいっぱいだ。
